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アッシュと大使

ふっと、一瞬目の前を過った毛先につれ色素が薄くなっていく朱色を目で追いかける。何を急いでいるのか、揺れる髪は走る速度に合わせ弾んでいる。

「屑が」

あの背中が憎い。揺れる髪が憎い。俺から奪った。何もかもを。憎い、なにも知らずのうのうと生きてきた劣化複写人間が。
憎しみを込めて遠くなっていく揺れる髪をにらみ続けていると、突然奴はピタリと止まった。その状態のままゆっくりと振り返った際に見えた表情が俺の胸を一瞬止めさせた。

なんだ、やめろ。そんな顔をするな。お前はなにも知らずに生きてきたただのガキだ。

「何でそんなに辛そうな顔をする」

なにも知らなかったからこそ、人を殺めてしまう行為を知らなかったからこそ、その行為に深く傷ついてしまうのだろう。

「お前はなにも知らなくてよかったんだ」

そしたら俺も憎しみ以外にお前に向ける感情なんて知らなかったのに。

見えない何かに追われる複製品との距離まであと七歩。



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